つい先日ですが、私にとって非常に心躍るエピソードがございまして、この場を借りて少し語らせていただきたく思います。


 私が彼らと行動を共にしていた時でございます。
 私は常に殿を歩いており、温かく彼らの楽しむ様を見守っておりました。
「皆さん、そろそろお腹空きません?」
 こうして、いつも行動の先陣を切るのは橘殿です。なかなか小さな体で、よくこれほどの活力を持てるものかと、私はいつも感心している次第でございます。
 私ももう数十年若ければ、彼らを引っ張っていく力を有していたかもしれません。ですが、それも叶わぬ夢です。
「そうだね。実は僕も先程から空腹を覚えていたんだ。時間的にも適切だしね。キミはどうだい?」
「どっちでも構わん。僕は昼食を済ませてきたんだ。好きにしろ」
 彼は非常に口は悪いのですが、心の奥には熱いものが眠っていると私は信じております。
 私以外に男性は彼しか居ませんゆえ、腹を割って話せる仲になりたいのですが、いやはや、どうも彼は心が固い。
「――食事――――米…………」
 私も少々小腹が空いてまいりました。
「じゃあ、決まりですねっ。何食べます? ちなみにあたしはハンバーガーに一票」
「特にこれといった希望はないね。意見が出たのなら、僕は黙っておくことにするよ」
「僕は食べない。勝手に決めておけ」
「…………米――――」
 この季節ですと、私はやはりこれを推させていただくとしましょう。
「今の時期の鯖は非常に脂が乗っておりまして、その塩焼きは絶品でございます。よければ私が調理して差し上げましょう」
 先日手に入れた三浦半島産の物を、ぜひ皆様にも味わっていただきたいものです。
「じゃあ、ライスバーガーも扱っているハンバーガーショップでどうだい? これならハンバーガーと米の両方をクリアしているだろう?」
 ふむ。
「あ、いいですね。やっぱりあたしもライスバーガー食べようかな」
 こうして、彼らと私はハンバーガー店へ赴くこととなりました。


 昼時だからでしょうか、店内は混雑しておりまして、苦心の末にようやく席を確保したのは私でございます。
 しかし、橘殿も私とほぼ同時に別席を確保したようでして、
「ご苦労なことだ。自分から進んでこんな役割を担うなど、僕には到底理解できん」
「……な、なんですかそれっ! そんなこと言うんだったら、ここには座らないで勝手に自分で席を探してくださいっ!」
「くくく、相変わらずだねキミたちは。僕は素直に橘さんの隣に座らせてもらうことにするよ」
「――――空き…………ひとつ――――」
 私も彼らの席へ移動することにしましょう。


 そうして食事も終わり、私も含め彼らが席を立つ準備をしていたところです。
「ゴミ捨てるの、じゃんけんで負けた人にしません?」
 またもや橘殿がひとつの提案を出しました。
 なるほど、このような定食屋ではお盆のゴミを自ら捨てなければならないようです。これは従業員の怠慢ではないかと、私には感じる次第です。
「いきますよ。じゃーんけーん、」
 みなさま拳を構えておられます。もちろん私とて例外ではなく、拳を構えて備えます。
「ぽんっ」
 なるほど。
 パーがお二人、グーもお二人、そして私がチョキでございます。やはり人数が多いと、どうしてもあいこが多くなるのは仕方がないことでしょう。
「まるで何かの示しがあったかのような結果だね。じゃあ、僕は外で待ってるとするよ」
 ふむ。
「あははっ。残念ですねぇ、藤原さん。じゃ、あたしも佐々木さんと待ってますねっ」
 嬉しそうな表情です。
「……ちっ。くだらない。おい、橘の分はあんたが捨てろよ」
「――――運ぶ………」
 私は自分のゴミを捨て、佐々木殿の待つ外へと向かいました。
 日中の陽射しは執事服の私には少々暑く、ですが、こればかりは季節が過ぎるのを待つ以外に方法はございません。風鈴の音色が恋しいところです。
 ゴミを捨てたお二人がお戻りになられ、次の行動を何か提案して差し上げようと私は考えておりました。
 そうですな、空き地でオナモミを集めるのも趣があってよろしいのではないかと。
「僕はもう帰る。一日を丸々あんたたちと過ごすのは勘弁だ。気が滅入る」
 残念です。私も若ければ、これから両手に花だと喜んでいたのかもしれないでしょうが、今はそうはいきません。
「私では、若い女性三人のお相手に少々不安があるかもしれませんが、どうぞお任せください」
「実は僕も用事があってね。さほど急ぐようなことではないのだが、この時間帯に帰るのがベストだね」
「……そうですか。佐々木さんもなら、しょうがないですね。今日は解散にしましょう」
 それがいいでしょう。


 さて、私も蝶ネクタイを緩め、帰ることにしましょう。
 まだ陽は高いですが、明日も彼らの笑顔が楽しみでなりません。彼らの笑顔を守ることができるのを、私は非常に誇りに思っております。

 こうして彼らの笑顔を思い浮かべながら、ベランダに敷くダンボールを二枚ほど探し、私の一日が終わるのです。