ああいうことがあってから二日経ったので、ちょっと街行く人々の写真を等身大ポスターにしてみることにした。
 部室の壁に次々と現れる見知らぬ人の姿の等身大ポスター。ゆっくりとお茶を啜るのもままならない。
 俺は部室に居るのが辛くなり、二時限目を自宅で過ごし、三時限目は出席し、四時限目からは再び自宅で待機した。
「五時限目は出た方がいいのか?」
 四時限目が終わる頃を見計らい、俺は急いで文芸部室へと駆け出す。
 途中でシャミセンを一年三組に預け、ようやく部室に到着。

 信じ難い光景だった。

 中学二年の時の担任教師。等身大ポスターのうちの一つの右半身が、それの姿に成り変わっていた。
「どうやら、これも涼宮さんの仕業のようですね」
 その左半身も担任教師のポスターに貼り替えつつ、古泉は言う。
 なるほど、そういうことか。
 だとすれば、俺が行くべき場所は一つしかない。
 俺はポスターの下半身を中学三年の担任教師に貼り替えたあと、急遽学食へと向かう。

 到着するや否や急いで財布を取り出し、カレーライスひとつとライス大をひとつ注文する。
 急いでカレーライスを掻き込んで完食させ、続いてライスも掻き込み、それも完食させた。
 横で親子丼とライス大を優雅に食している古泉が、
「解りましたよ。なぜ涼宮さんがポスターの右半身を改変したのかが」
「いや、明後日でいい」
 だが古泉は続ける。
「校則です。生徒手帳の校則に注目してください」
 俺は急いでカウンターで生徒手帳を注文し、校則が記載されてあるページを開く。
 第一条から順に追っていくと、

『第16条 第7条とほぼ同じ』

 俺は全てを理解した。
 俺はあまりの動揺で、カレーコロッケを窓に叩きつける。
 飛び散るジャガイモの破片に、俺に拾うことができるのだろうかと頭をよぎるが、今はそんなこと関係ない。
 すぐさまガムテープを懐から取り出し、自分の足元にラインを引くように貼る。
 そしてなんとかラインを踏み越えまいと、必死に手を伸ばしてコロッケを目指す。古泉の「頑張れ」という声援が心強い。

 ――届いた。

 俺の想い。コロッケは吸い込まれるように俺の手の中へと導かれる。
「やりましたね。これで涼宮さんも世界を元に戻してくれるでしょう」
「いや、まだだ」
 そう、隣街へ。
 俺は食器をカウンターへ返すや否や学校を飛び出し、懐は傷むがすれ違う人々に十円を配りながら駅へと向かう。予想外の出費だ。
 こうして駅に辿り着いたものの、ここで俺は切符代が足りないことに気付く。
 だが胸ポケットに入っていたドドメ色の液体を売り捌き、なんとか切符代を稼いだ。
 目的地より二駅先までの切符を買い、目的地へと向かう。
 電車内はさほど混雑していない。だがここは、もっと混雑していないと思い込むのが得策だろう。
 あと一駅で到着。俺は十円を配り続ける。
 電車がホーム内に入りだした。
 あと5人で車両内全員に配り終えることができる。間に合うのかはかなり微妙なラインだ。
 とうとう停車し、扉が開こうとする。あと一人。
 扉が開き終えると同時に、最後の一人に十円を手渡す。間に合った。車両内が温かい拍手で包まれる。
 するとホームで待ち構えていた古泉が、
「どうやら間に合ったようですね」
 ああ、誰かさんのおかげでな。
 なんとか今回もしのぎ切ったが、またさらに厄介な事態が待ち受けていそうな予感がひしひしとする。
 でも俺は恐れない。

 来るなら来やがれってんだ。