命の谷 vol.5 ライオンの話






どうして私がお前を食べないかって? お前が小さいからだ。
お前を食らったところで何の満足感も得られないからだよ。
食べられたいというなら、いつでもお前を食べてやるさ。

お前と私の違いなど、どうでもよいことだ。
大切なのはお前が私を想い、私がお前を想うこと。
そして等しく生きていることだ。
人間たちは争いを止めないが、利益を欲しない私たちには争う理由もない。
ヒトもまた、いつか本当の利益に気づく。
誰も憎みあう必要はない。
誰もが共に生きられる。
私たちはそういうものだよ。

しかし、お前は小さく弱い。この世界で生きることは困難だろう。
だから私が片時も離れずに傍にいて、お前を護ってやろう。
蒼く冷えた山、虹を映す滝、果てしなく続く渓谷。
お前に世界の優しさと美しさをみせてやるよ。

それでも命の灯火はいつか消える。夢のように淡く儚く消えてゆく。
もし、お前が死んでしまったときには、暖かに安らかにお前が眠れるようずっと祈っていてやるさ。

死は終わりなんかじゃない。

だからお前も、私の死を前にしても悲しまないでくれ。
来るべき時をしっかりと受け止めてくれ。
それから、そのときにお前の笑顔を見られたなら文句なしだ。
お前のその純粋な、愛しさに満ちた笑顔を見ていけたら、それ以上の幸せはないさ。


さあ、私と共に生きよう。

























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